株式投資型クラウドファンディングで出資する時に「エンジェル税制適用」かどうかという項目が見られると思いますが、一言にエンジェル税制といっても理解しがたいところがあります。言葉の通りエンジェル投資に対して一定の税の優遇がある制度ですので、利用できるならば利用したほうがいい制度です。特に個人投資家の手段として多い、株式投資型クラウドファンディング提供業者を通して投資する場合のケースを含めて、詳しく解説してみたいと思います。

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なお、中小企業庁のホームページ「エンジェル税制のご案内」でも詳しく載っています。全てを網羅していますので、関係ない部分もありますが概略から申請まで迷ったことがあれば解決内容が含まれていることがほとんどです。

最新情報も更新されるでしょうから、参考にしましょう。

エンジェル税制とは

エンジェル税制とは、ベンチャー企業への投資を促進するためにベンチャー企業へ投資を行った個人投資家に対して税制上の優遇措置を行う制度です。ベンチャー企業に対して、個人投資家が投資を行った場合、投資時点と、売却時点のいずれの時点でも税制上の優遇措置を受けることができます。
また、民法組合・投資事業有限責任組合経由の投資についても、直接投資と同様に本税制の対象となります。

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まず優遇措置があるタイミングですが「投資時点」「株式売却時点」の2つのタイミングで税制上の優遇措置を受けることが出来ます。

1.投資時点の優遇措置「優遇措置A、優遇措置B」

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投資時点での優遇措置は「優遇措置A」と「優遇措置B」があります。優遇措置Aの方が適用要件が厳しいため、優遇措置Aが適用可能な場合は個人が「A」か「B」を選択できます。基本はAの方が所得からの控除ですので、税優遇を受けやすいと言えそうです。Bに関しても株式譲渡益からの控除ですので、株取引で儲けている方にはありがたい内容と言えます。「A」ならその年での確実な税控除、「B」なら他の株式譲渡益を考えて控除できるというメリットがあります。

ざっくりと選択をどちらかにするなら

投資した年に、株式譲渡益がたくさんあって株式譲渡益から控除できるならBを利用。それだと控除できない、所得税から素直に引いて恩恵を受けたいならAを利用ですね。

2.売却時点の優遇措置(A,B共通)

投資した株式を売却したときの優遇措置は「生じた損失を他の株式譲渡益と相殺」できます。また相殺しきれなかった場合は翌年以降3年間繰越が可能です。

ベンチャー企業への投資は損失リスクも高いですから、その時点で税制面で優遇があるというのは大きなメリットかと思います。基本、ベンチャー企業に投資して損失が生じる可能性が出るのは数年後だと思いますので、その時点での運用成績はわかりませんので、損失の繰越が3年間可能というのは大きいのではないでしょうか?

3.エンジェル税制プレシード・シード特例案件

2023年4月からはベンチャー投資促進の施策として、さらにエンジェル税制にプレシード・シード特例というものが登場しました。ベンチャー企業側からもかなりお得な税制ですが、投資する側もエンジェル税制B適用銘柄にさらに上乗せしたような条件があります。

売却時の損益で取得価格の調整不要になる。これまでは先に投資時の優遇措置を受けて控除をした場合は株式の取得価格を減額して課税計算が必要でしたが、プレシード・シード特例案件の場合は投資時にも控除として使え、さらに売却時に利益が出た場合も、投資額は控除として使えるようです。「投資時も売却時」も控除に使えるイメージで良いでしょう。

エンジェル税制適用要件

投資先のベンチャー企業がエンジェル税制に適用かどうか?というのは明瞭なようで複雑です。

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株式投資型クラウドファンディングを経由して投資する場合は申込み時点で適用要件を確認して表示またはアピールしてくれている事がほとんどですので、細かい内容は気にしなくて良いと思います。基本的にはAの方が適用が厳しい条件になっています。

またベンチャー企業が要件を満たしていても申請手続きを行って、必要書類が手に入らなければ個人投資家が確定申告で手続きすることが出来ません。そういう意味で、サービスを運用している株式投資型クラウドファンディング業者がしっかり対応しているか?の方が重要かと思います。

適用要件は一目する程度にしておいて、株式投資型クラウドファンディングの案件情報内で「エンジェル税制適用確認済み」などとなっているかのほうを意識したいですね。そうであれば、投資した後もしっかりと書類を集めやすいかと思います。

エンジェル税制の申請方法、確定申告

エンジェル税制をしっかり適用するには「確定申告」が必要になります。普段確定申告はあまりしたことがないという人にとっては砦となりやすいかもしれません。ただ、株式投資を行っていて口座間での損益通算であったり、ふるさと納税で自分で確定申告をして節税している人にとっては似たような部分があるので理解できるでしょう。

基本は「必要書類をしっかり集め」「確定申告書の必要欄に書き込む」という部分だけです。

・エンジェル税制申請と必要書類

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中小企業庁のホームページをみると書類が多く大変そうに見えます。10項目の書類があり、投資時点は売却時点でそれぞれ必要な書類がありますので細かく見ておきましょう。

1.経済産業大臣の確認書(平成17年4月12日以前の払込み分については、経済産業局長等が発行した確認書)又は認定投資事業有限責任組合が発行した確認書(認定投資事業有限責任組合の認定証の写しも添付すること)(ベンチャー企業が用意)。

2.発行会社が交付する一定の株主に該当しない旨の確認書(ベンチャー企業が用意

3.株式投資契約書の写し(株式投資型クラウドファンディングで投資時に契約書あり)

4.株式異動状況明細書(ベンチャー企業が用意

5.清算結了の登記事項証明書、破産手続開始の決定の公告等(ベンチャー企業が用意

6.株式等に係る譲渡所得税等の金額計算明細書(自分で用意)

7.株式等に係る譲渡所得税等の金額計算明細書(特定権利行使株式及び特定投資株式分がある場合)(自分で用意)

8.特定(新規)中小会社が発行した株式の取得に要した金額の控除の明細書(自分で用意)

9.平成_年分の所得税の確定申告書付表(特定投資株式に係る譲渡損失の繰越控除用)(自分で用意)

10.特定新規中小会社が発行した株式の取得に要した金額の寄附金控除額の計算明細書(自分で用意)

企業側が発行するものに対しては確定申告のシーズンまでに企業側に用意してもらわないといけません。その点で考えると株式投資型クラウドファンディング業者を通して「適用」となっている場合は、しっかりと対応してもらえると思います。

「自分で用意」するものに関しては「国税庁のホームページ」から様式のダウンロードが可能です。「6」「7」「9」あたりは自分で株取引の損益通算などで確定申告したことがある人は馴染みがありそうです。

それ以外に、特定中小会社への投資に関しての書類が増えると行ったところでしょうか?

まずは、上記の書類がしっかりと集まって計算が済んでいる(書き込みが済んでいる)という順番で、最後の確定申告書を作成していく手順がスムーズです。

具体的な確定申告書の記入欄では

「投資時点、優遇措置A」・・・寄付金控除に記入します。「ふるさと納税」と同じ項目です。

FUNDINNO(ファンディーノ)さんが分かりやすい記載例を用意してくれているので、リンクを貼っておきます。

【確定申告書記載例(優遇措置Aに該当する計算書類)】

「投資時点、優遇措置B」・・・株引等に係る譲渡所得等の金額計算明細書の「特定投資株式の欄」があります。

FUNDINNO(ファンディーノ)さんが分かりやすい記載例を用意してくれているので、リンクを貼っておきます。

【確定申告書記載例(優遇措置Bに該当する計算書類)】

「売却時点」・・・注意点としては取得金額から投資時点の優遇措置を受けた控除額を引いて計算します。実際問題は投資時点で控除額が大きいため、損失額はあまり申請できないかもしれません

e-taxで具体的にエンジェル税制B適用を記入した手順

言葉だけではわかりにくい部分がありますので、具体的にe-taxでエンジェル税制B適用を受けるために記入した手順を紹介します。

この例はエンジェル税制B適用銘柄の購入した証明書が確定申告シーズンまでに用意できていてe-taxで実際にそれを見て記入しています。(エンジェル税制B購入時適用の内容であればe-taxだけで確定申告が可能です)

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株式等の譲渡所得等の欄で「特定投資株式の取得に要した金額の控除の特例の適用がある」にチェックして入力します。

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2020年にユニコーンで投資したオリーブ技研の例です。「株式移動状況明細書」に載っている内容にそって記入すると簡単ですね。移動年月日が取得した年度ですので12月付近に投資した案件は、次年度の場合があります。これらを適用を受ける件数記入していきます。

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結果的に必要な書類(申告書)が出来上がっています。

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また複数案件記入していくと合計額が株式の譲渡所得の控除額として入ってきます。これで他の上場株式の所得があり源泉徴収で払いすぎていると控除できますので、確定申告することによって払いすぎた税金の還付となります。

エンジェル税制A場合は計算を自分でして、寄附金控除の欄を用いて記入という形でした。こちらは計算書がどうやらe-taxには対応していない状況(令和2年度)と書いていました。上場株の利益があって、そちらで控除できる方はエンジェル税制B適用(株式利益からの控除)でまとめても良いかもしれませんね。


実際の確定申告と税控除を見てみると、やはり投資時点での控除が出来る点が大きいです。

例えばになりますが株式投資型クラウドファンディング業者を通せば、1案件の1口が10万円~が多いですので、年間に5件ほどエンジェル税制適用の企業に投資したなら50万円の投資とします。

投資した年の上場株の株取引が調子がよく50万以上の売却益があるなら、そこから50万差し引いて源泉徴収されている株式譲渡益の税金が還付できます。50万の20%程度で10万ぐらいは税金が返ってきますね。

そうでなくてもエンジェル税制Aが適用できるなら、所得控除で概ねこちらも20%以上は返ってくるので10万以上は返ってくるでしょう。

そう考えるとエンジェル税制適用案件は、投資先候補の目安にもなりますし、少し書類集めや確定申告が面倒でもしっかりと対応したほうが良いですね。